マイ昆虫記録館>鱗翅目>シロチョウ科
上段オス、下段メス 採集データ:共通
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1971年5月、当時東京で高校生だった 私は、以前から憧れていた本種の採集に出かけた。場所は当時の昆虫雑誌を参考にして南アルプスの 広河原(ひろがわら)を選んだ。新宿駅で特急あずさに乗り、甲府駅で降り、バスで終点の広河原 ロッジに向かう2日がかりの採集旅行だった。 夜の新宿駅で特急に乗った。車内は満員で座席には座れず、客車に通じるドアに体を預けながら、甲府駅までの 2時間ほどの間、心地よい振動に身をまかせ、本種を初採集するうれしい瞬間を頭に描いていた。 少し離れたところに1メートルほどの細長い布袋を肩にかけている若い男性がいた。自分も同じような布袋(補虫網の 竿入れ)を持っていたので、思い切って「すいませんが、もしかして蝶の採集ですか?」と声をかけてみた。 男性はいやな顔もせず「ええ。」と答え、高校生でやはり本種の採集で広河原に行く予定とのことだった。 色々話を聞かせてもらい、本種の採集はかなり難しい、蝶より人の方が多い、などと教えてもらった。「これは無理かな。」と少し弱気に なった。迷惑とは思ったが、場所に不慣れな自分には心強いと思い、同行してもよいかと聞いてみた。高校生(以下Sさんとする)の方は快諾してくれた。 夜中の12時ころ甲府駅に到着し、早朝に出発する広河原ロッジ行きのバス停に向かった。バス停には既に10人以上並んでいた。 温かいコーヒーを飲みながら、じっとバスの到着を待った。到着したバスに乗り込み、目的地に向かった。 途中左側が断崖絶壁の細い山道を何度か通り抜けた。その都度肝を冷やし、生きた心地がしなかった。 そのうち車外の景色が明らかに変化してきた。樹木が少なくなり、砂礫が目立つようになった。その中を渓流が 数本流れていた。その荒れた場所に根を下ろすミヤマハタザオを食草とするのが本種だ。目的地に到着し、さすがに二人一緒では 蝶の奪い合いになり、気まずいことになると思い、Sさんとは別行動をとることにした。快晴でヒンヤリする空気の中、 近くの渓流沿いを散策した。しばらくして、10メートルほど先に真っ白な蝶がミヤマハタザオに舞い降りる のが見えた。駆け寄り、緑色の雲状模様を確認し、無我夢中で採集した。初採集の本種はメス だった。後で高校の先輩に聞いた話では、メスは生かしたまま持ち帰り、採卵で何頭もの成虫を得ることが比較的容易とのこと、 また累代飼育も可能で、食草は平地にも普通に生えているタネツケバナで問題ないとのことだった。その後昼ころまで砂礫を歩き回ったが、 出会うことはなかった。広河原ロッジで再開したSさんは、収穫なしとのことだった。 昼食後、帰りのバスを待った。休憩室で別の採集者の方と話し合い、その方の 自動車で甲府駅まで送って頂くことになった。20代の男性で3頭採集したとのことだった。自動車はいかにもスピードの 出そうなタイプだった。細い山道もなんのその、断崖絶壁の場所もあまりスピードを落とすこともなく甲府駅まで 突っ走った。途中何度も目をつぶってしまった。 社会人になり、知り合いの方から本種の蛹を送ってもらい、ペアを所有することができた。その方は本種をとても気に入っていて、 累代飼育もやっているとのことだった。(2019年5月記)