マイ昆虫記録館>鱗翅目>タテハチョウ科
鱗翅目(タテハチョウ科)へ戻る 鱗翅目へ戻る トップページへ戻る
普通種の本種と出会う機会は多いが、 写真の標本には特別な思い出がある。この日は両親と3人で父の車でドライブに出かけた。札幌から千歳方面を ぐるっと回り戻ってくる半日ほどのドライブだった。千歳では郊外の広大な田畑の小さな空き地に 車を止め、草むらにビニールシートを広げて昼食をとった。快晴で暑さも気にならず、大空の下、楽しい 食事だった。父は大きなおにぎりを食べながら、ニコニコ笑っていた。周りには背丈ほどの雑草が生い茂り、 すぐ近くを流れる小川には、清らかな水の流れに沢山の水草がゆらゆらと揺れ、中には白い花をつけている ものもあった。食後採集道具を持って辺りを歩いてみた。少し風が吹き始め、雑草が頭を垂れるように 揺れ始めた。すると、数頭の黒っぽい蝶が雑草の中から姿を現し、風下に向かって飛んで行った。 何度も出会ったことのある本種とすぐに分かった。その後も次から次へと現れ、草の上をコロコロと 転がるように飛んで行った。2頭採集し、その後は戻ってのんびりと寝ころんだ。この4年後、 父はガンでこの世を去った。この標本を眺めていると、当時の情景が浮かんでくる。 爽やかな風が波打つように草花の間を吹き抜け、清流の心地よい音色が静寂の中に響き渡るなか、 屈託なく笑っていた父の笑顔を思い出す。(2019年6月記)