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1968年8月、当時中学2年だった私は、 茨城県取手町の自宅から両親の出身地の北海道礼文島まで、母と二人で旅行に行った。 常磐線経由の特急「みちのく」で終着駅青森まで行き、青函連絡船で函館に渡り、急行で稚内に向かい、 一泊後フェリーで礼文島香深(かふか)港で下船する、という長旅だった。礼文島では母方の親類の 家にお世話になった。香深からその家までは徒歩で1時間ほどの距離で、途中の岩肌には高山植物と 思しき可憐な花々があちらこちらに見られた。蒸し暑い自宅とは異なり、海からのヒンヤリした 風が心地よかった。 当時の礼文島は国立公園に指定される前で、蝶の採集のため採集道具を 持参した。親類の家は海岸のすぐそばで、裏手は小高い丘になっていた。傾斜のきつい 上り坂を息を切らせながら上りきると、なだらかな草原が広がっていた。海を隔てて雄大な利尻山が 一望でき、その素晴らしい景色に感激した。翌日、採集道具を持ってこの草原を散策した。 途中に背丈ほどの大き目の雑草があり、10頭以上の黒っぽい蝶が群れていた。雑草には 白い小さな花がたくさん咲いていて、その蜜を吸っていた。網を振ると一目散に逃げて行った。 3頭採集して本種と分かった。初採集でうれしさがこみ上げてきた。 その日の夕方から急に体調を崩し、高熱を出して寝込んでしまい、翌日も寝床で休んでいた。 薄暗い寝室で、三角カンから採集した1頭を取り出して眺めた。三角紙に収まっていた蝶は 胸の押しが弱かったため、もぞもぞと動いていた。取り出して人差指に止まらせてみた。 その蝶は力なく指先に止まり、じっとしていた。そこで初めてじっくりと観察した。 ただ黒っぽい、と思っていた色が、濃淡様々の茶色からなり、翅全体が淡いビロードの ような輝きを放っていた。とても美しい蝶ということにこの時初めて気づいた。(2019年6月記)