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当個体との出会いは、忘れがたいものとなった。 自宅近くの林道を散策中、雑草の太い幹にしがみついているところを採集した。これだけならなんの 変哲もない出会いだったが、他の虫では経験したことのない変化があった。採集時、以前採集したヤナギドクガ のような純白の翅で、前翅に特徴的な”L”の黒い斑紋があった。ヤナギドクガでないことは 直ぐに分かった。採集時には気がつかなかったが、三角紙にしまうとき、翅全体がうっすらと 水色に染まっているのに気付いた。ちょうど冷えたアイスキャンディーのように、表面がうっすらと白色で、 その中に透き通るように淡い水色の氷が透けて見えるようだった。「面白い蛾だな。」と 嬉しくなった。展翅後じっくり見て、その美しさに変化はなく、一生この変わった美しさを 眺めることができる、と思い、胸の奥からふつふつと喜びが湧き出てきた。ところが、数日たって 確認してみると、あの不思議な水色は跡形もなく消え失せ、ただの純白になっていた。本当に がっかりした。思うに、当個体が生きている時にだけ見せてくれた生命の色だったのかも しれない。展翅後にはまだ完全に死んでおらず、その最後のきらめきをみせてくれていたに 違いない。そう思うと、これまで多くの虫たちを標本にしてきたにもかかわらず、何か言い様の ない辛い気持ちになった。あの水色が消えていくとき、生命の灯がゆっくりと消えていった に違いない。これまでにも採集後色が変わってしまった虫と出会ったことは何度もあった。 だが、これ程短期間に変化した虫と出会ったのは初めてだった。(2011年10月記)