マイ昆虫記録館>鞘翅目>カミキリムシ科
採集日 | 採集地 | 採集者 |
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1996年8月19日 | 北海道十勝三股置戸林道 | 管理人 |
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1996年の夏、オオトラカミキリへの
採集欲がヒートアップしていまい、採集場所を色々調べていた。カミキリに興味を持ち始めて
2年目のことで、虫仲間がいなかったので、当時愛読していた「新しい昆虫採集案内(Ⅰ)-東日本採集地
案内編- 京浜昆虫同好会編」を参考にして決めることにした。この中に「三股(みつまた)盆地」が紹介されていて、
アオヒメスギやオオトラ等の珍種が採集されており、その数も決して少ないものではない、との記述が
あった。ただ、注意事項として「夏期すら周辺の沢にはヒグマがしばしば出現する」とあり、
まずいかな、とも思った。しかし、何としてもオオトラを採集したい、との熱望を消すことができず、
採集を決行することにした。
札幌の自宅から十勝三股まで5時間ほど国道273号線を走り、「十勝三股」のバス停
を見つけ車を降りた。周りは広い草地で何か拍子抜けした。昔はここに大きな貯木場があったのかな、
と思い巡らした。近くにログハウス風の喫茶店があり(後に三股山荘と判明)、軽食をとった。店内を見回すと
壁に昆虫標本箱が飾られており、その中には間違えようもないオオトラカミキリが混じっていた。「あの標本箱の
虫って、ここで採集されたものですか。」「ええ、以前東京の学生さんが来て採集したものを
残してくれたんですよ。」そんなやり取りがあったと思う。やはりいるのだ。だが、この
近辺には草原しか見当たらず、林道にでも入らなければ採集できない気がした。もう一つ気になる
質問をしてみた。「この辺はヒグマがいるんですか。」「ええ、いますよ。」なんとも
簡単明瞭な答えが返ってきた。しかし、ここまで来て引き返す訳にはいかない。林道を見つけ
採集することにした。お礼を言い、喫茶店を後にして北に向け車を走らせた。
「置戸方面」の道路標識が見え、林道が続いていたので入っていった。「置戸(おけと)」の
地名は、前述の本に記載があったので覚えていた。土煙がたっている未舗装道路に少し入ると、そこは
もう針葉樹林の真っ只中で、薄暗く不気味な雰囲気だった。いつヒグマが出てきてもおかしくない
と感じた。ゆっくりと進んでいった。誰もいなかった。出会う車もなかった。数10分程行った所で、
両脇に白い花が咲き乱れている場所があった。なにかいるかも知れない、と車から降りて採集する
ことにした。ただ、いつヒグマが出てきてもすぐに車に逃げ込めるように、車からほんの数メートル
以内で採集しようと決めた。
車から降りほんの数歩歩いただけで何か異様な雰囲気に飲み込まれそうになった。暑さの中、冷汗が出てきた。
「ここは、やばいな。あの花を調べてすぐ引き上げよう。」と決め、心臓の高鳴りを感じつつ白い花に
近寄っていった。その花には、赤いカミキリムシが何頭も群がっていた。アカハナカミキリかな、と思い
採集してみた。捕虫網を一回振り回しただけで、10頭以上入っていた。一頭つまんでみると、触角が黒白の
まだら模様になっていた。明らかにアカハナカミキリとは違う見たこともない種類だった。無我夢中で
網から逃げようとする虫をつまみながら、さらに網を振り回した。もう興奮の坩堝、パニック状態だった。
ヒグマの恐怖も吹き飛んでしまった。結局10数頭採集した。そのほか見慣れないハナカミキリも一頭混じって
いて、これは後ほどタケウチホソハナカミキリと分かった。採集後の後片付けが終わると、
再びヒンヤリと冷たいものが背筋を走り、ゾッとし始めた。そしてその思いはますます強くなってきた。
こうなると、もうオオトラカミキリどころでは無くなってきた。急いで車に戻り、一刻も早くこの薄暗い林道
から抜け出ようと決め、スピードを上げて国道273号線に戻った。明るい国道に出た時、本当に
ホッとしたのを覚えている。帰宅後、アカハナカミキリに似たこの虫は本種だと分かった。それ程珍しい種類
でもないようだった。
この時の本種の標本を見るたびに、あの時のヒンヤリした何とも言えない恐怖と、熱狂して採集した激しい感情
が思い出され、懐かしい。(2008年5月記)