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破損(>_<)後修復
採集日 | 採集地 | 採集者 |
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2007年7月24日 | 北海道札幌市中央区円山 | 管理人 |
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2007年の夏、
札幌市内の有名なネキダリス(ホソコバネカミキリの仲間)の採集地である円山(まるやま)
に何度か通い、 既にペンナータ(ホソコバネカミキリ)を幸運にも2頭得ていた。
7月24日の朝、外をみるととてもよい天気だった。最近では一番暑く、
風もなかった。「今日は絶好の円山日和だな。」と思い、6時すぎに
いつもより多めに朝食をとり、採集道具を揃えて愛車の「ディープ
ブルー号(自転車)」にまたがり、8時少し過ぎに自宅を出発した。
およそ一時間ほどで太師堂入口に到着した。ここから円山山頂までは通いなれた
登山道だった。登山開始前に持参した麦茶を一口飲んだ。ここまでの運動で
すでに汗びっしょりになっていた。奇怪な雰囲気のお地蔵さんが立ち並ぶ
登山道入口を通り抜け、山頂目指して歩き始めた。途中、7月初めに知り合いになった
Yさんに出会った。Yさんは初老の方で、前回出合った時の話からカミキリムシ
採集の大ベテランだと分方ていた。Yさんは大木の周りを駆け回っているシマリスを
眺めて休んでいた。私が挨拶すると、「ああ、こんにちは。」と笑顔で答えてくれた。
少し休んだ後、一緒に山頂目指して歩き始めた。少しつらそうな 様子で、「最近腰を痛めてね。
いつもはコルセットを付けているんだが、今日は調子が いいのではずしてきたんだ。
でもやはりこたえるね。」とYさん。私は、「もし、ギガンテア(オニホソコバネカミキリの学名
の略称)でも採集しようものなら、一週間は酒盛りですよ。」と冗談交じりで言った。
勿論、そんはことは夢物語であることは分かっていた。ギガンテアという虫は、自分には
身分不相応の、死ぬまでにお目にかかれるかどうかすら わからない雲の上の虫だった。
カミキリムシの雑談をしているうちに山頂に到着した。山頂は小さな公園ほどの平坦な場所で、
すでに10人ほどの登山者がいた。捕虫網を持った若い採集者が一人、大きな倒木の
周辺を注意深く見回っていた。「何か採れましたか。」と尋ねると、「いいえ。」
と言ったきり再び熱心に見回していた。私は、「山神」と大きな文字が刻印された石碑
の後ろにリュックサックを置き、麦茶を取り出して三口ほど飲んだ。無風で、とても
暑かった。何か良いことが起こる、そんな不思議な気持ちが湧いてきた。麦茶を
飲み終えた後、リュックサックから年季の入った四段つなぎの竹の捕虫網を取り出し、
組み立てて準備を終えた。そして、何気なく石碑の後方に生い茂っている樹々の方に
目を向けた。色艶の冴えない一本の古木の地上2メートルほどの所にやや大きめの
虫が張り付いていた。その形、雰囲気、全身から発するオーラ、全てが図鑑や
ネットで見てきたあの虫であることが瞬時に分かった。急いで駆け寄り、捕虫網に入れる
より早く、しっかりとその虫をつまんでいた。そして捕虫網に入れ、逃げないように
念入りに開口部を塞いだ。ギガンテアを採集したものの、どうしてよいかわからない。
リュックサッから毒ビンを取り出し、どうにか納めることができた。捕虫網の中の毒ビン
越しに見える金色の微毛に包まれえたその姿は、言葉にできないほど美しかった。この先
再びこの虫と出会えたとしても、これほどの感激を味わうことは決してないだろう。
しばらくして、Yさんがそばに来て、「何か採れましたか。」と尋ねた。「ええ、多分
ギガンテアだと思うんですけど。」と私。毒ビンの中の虫をチラッと見て、「ああ、
立派なギガンテアですね。腹が大きいので、多分メスですね。私も初めてギガンテアを
捕らえた時は手が震えましたね。」と祝福してくれた。気持も落ち着いた後、毒ビン
からフィルムケースに虫を移し、その姿を再度観察した。本当に美しかった。
こんな幸運に恵まれることは今後ないかもしれないと思い、予感が的中したことが
不思議に感じられた。その後、フワフワした気分で採集を続けたが、何も採れなかった。
そろそろ帰ろうかな、と思っていた頃、以前Yさんとここで採集していたプロの写真家の方が
大きな捕虫網を抱えてやってきて、「何か採れましたか。」と尋ねてきた。Yさんが、「Kさん(
私のこと)が ギガンテアを採りましたよ。」と答えると、「本当ですか。よかったら見せてもらえ
ませんか。」と驚いた様子で私に話しかけてきた。「いいですよ。」と答えてフィルム
ケースからギガンテアを取り出し、手のひらにのせた。「わあ、大きい。」と写真家の方は
小さな声でつぶやくと、食い入るように手のひらの虫を凝視していた。
昼近くになり 、円山から帰宅した。別れ際、Yさんは、「今日は飲み過ぎないようにね。」
と忠告してくれた。「いや、飲みます。こんな素晴らしい日に飲まないわけにはいきませんよ。」と言って、
笑いながら別れを告げた。帰宅後、整形してその姿にあらためて見入ってしまった。
本当に美しく、立派で、人の心を狂おしいほどに夢中にさせる不思議なカミキリムシだな、と実感した。
(2019年4月記)